2008年4月25日 (金)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その9

 あんなに大きいって、そ、そんなにデッカイの?
 上のお坊ちゃんなんかこんなですよ、こ~んな。太腿なんてこんなにパンパンで……
 体格のことじゃなく、年齢のことだよ。
 年齢? あの、失礼なこと申しあげるようですが、お兄様なのにご存知ないんですか?
 えっ? あの、だ、だからその、家出……してたから……、なんとなく、そんなこと忘却の彼方に……
 あ、なるほど。
 で、その、いくつといくつに……なるんだっけ?
 中三と中一です。
 あ、その程度。
 その程度って?
 いや、なんでもない、なんでも。なんていうか、アレだよ……、そう、それぐらいの家出だったのかな、案外短かったんだなと思ってさ。ハハっ…、ハハハ……
 短期間でそんなふうにお思いになるなんて、家出中によほど色々なことがおありになったんじゃないですか?
 そりゃ、色々あったさぁー。カノジョに出来きると思った女にいいようにされて、クソ高いバッグだのリングだのジャカスカ買わされて、それであっちのほうは何だかんだいってお預けつづきで、挙句の果てにはカッコいいカレ氏が見つかったからやっぱアンタとはつき合えないわ、バイバーイっていって去られ、ただ残ったのは三十六回の重い重いカードローンだけで、で、思い余ってこの家へ……
 は?
 いやっ、いやいやっ。オレのことはどうだっていいんだ。で、どう? テスト、試してみないか?
 アレのお相手……するんですよね……?
 相手は中学生だよ。中坊。たいしたことないって。自分が中学生だったころを思い出してみればわかるだろ?
 中学の頃ですかぁ……、当時はそうだとは思いませんでしてけど、いま振り返って考えてみますと、とても中学生とは思えない、それはそれはハードな…
 あん? お前、何いってんの?
 あ、いえっ。なんて申しますか、ええっと、ええっとぉ……、とてもウブ……ですしたね。えへ……、えへへ……
 なんかよくわからないけど、でも、そうだろ、中坊のときなんて。だからさ、な? トライしてみない? 試してみようよぜ。
 ト、トライするのは……構わないといえば構わないんですけど……、でも、どんなことすればよろしんですか……?
 そうだなぁ。その普段着じゃあれだから、まず、メイド服に着替える、そこからだな。
 メイド服?
 そっ。この頃のガキの趣味だろ? とくにゲームなんかに血道を上げてるようなガキんちょにはさ。
 あ、なるほど。
 理解したら、着替えろよ。

          (つづく)

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2008年4月17日 (木)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その8

 ごっ、五十万もっ!?
 あとノーマルには付帯してないけど、ハイ・グレードとプレミウムには条件つきでボーナスだって出るんだぜ。
 ボーナスまで……
 そっ。興味ある?
 それは、それは……、ないわけでは……ない……です……、じつは……、あの、非常に申しあげにくいことなんですが……、カードローン……なんかがあったりしますもので……
 カードローン? 服とかバッグとかの買いすぎか?
 ま、まあ、そんなかんじなんですが……、あの、そのボーナスを支給していただくための条件ていうのはどんなものなんですか?
 訊きたい?
 それは……、まあ……
 ズバリ、アレのお相手さ。
 アレって、ゲームのですか?
 ゲームぅ? お前、また、からかってるのか?
 あの、あのっ、対戦型ゲームの相手になってくれるひとがいないって、よくふたりのお坊ちゃんが……、あの、あのっ……
 お前、何いってるんだよ。アレっていったらアレだよ、“ア・レ”。
 その手つきは、まさかそっちの……
 そっ。その“まさか”だよ。
 で、でも……、そんな……、どうして……
 “でも”も“そんな”も“どうして”もないだろ。それぐらいしないと高額な給料のほかにボーナスなんて支給されるワケないじゃないか。
 そ、そうかもしれませんけど……、でもぉ……、アレのお相手だなんて……
 なに? そっちのほう、自信ないの?
 自信ないって、あのぉ……、そういうことは、なんて申しますか、あのぉ……、あくまでプライベートなことですので……、ですから、そのぉ……
 ふ~ん、そうなんだぁ。じゃあさ、だったらテストしてみないか?
 テスト? 試してみる……っていうことですか?
 そっ。プレミアムに相応しいかどうかの適性をみるテスト。それを試みるんだ。どう?
お出来に……なるんですか?
 それ、どういう意味だよ! なんかカチンと来るなぁ……
 あのっ、あのっ、テスト、テストなさるっていうことは……、なんて申しますか、そのぉ……、わたしの予想が正しければ……、わたしを被験者にして……、ア、ア、アレのお相手する……っていうこと……ですよねぇ……?
 バカにするなっ! 背は低いかもしれないが、オレだって男だぞッ!! それぐらいのこと、いままで何十回もくり返してきてるんだッ。
 あのっ、あのっ、そういうっ、そういう意味で申し上げたわけではなくって、あの、あのっ、なんて申しますか……、ある意味ベテランさんのお相手を務めなくてはいけない訳ですから、なんて申しますか、それないりっていうか、若輩のわたしたちの知らないテクニックなんかも駆使したり……
 お前、何いってんの?
 は?
 “は?”じゃなくて、ベテランとかテクニックとか、お前、何いってんの?
 あの、えっ? あの、アレのお相手っていうのは……この家の……ご主人様では……
 違うよ、違う。息子のほうだよ。
 あっ、あんなに大きな方のっ!?

          (つづく)

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2008年4月13日 (日)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その7

 それは……、そのぉ……、ええっと……、なんて申しますかぁ……、遠い過去といえば……遠い過去のようですけど……、つい昨日の出来事のようだったといえば……そういえなくもない日のようでぇ……
 帰って来たら家族にいっちゃおうかな~、こんど雇った家政婦は~……
 待ってッ。待ってくださいっ、待って……
 答える気になった?
 答えます。キチンと答えますので……
 最後にセックスしたのはいつ?
 ええっと……、ええっとぉ……、に……、二ヶ月くらい……前です……
 何かウソくさいなぁ。
 どうしてっ!? どうしてお疑いになるんですかっ? 正直に質問に答えているじゃありませんか。それなのに……
 だってさ、いくつかよく知らないけど、二十代の後半ぐらいの年齢で、それにお前けっこう、いや、フワフワのパーマなんかかけてるからよく顔が見えないけど、よく見るとお前、かなりの美人じゃないか。そんなイイ女を世間の男が二ヶ月も放っておくなんて、そんなの誰が信じるよ。同じ男としてちょっと考えられない、いや、そんなのあり得ない…
 あの、あのっ、チャンスがなかったと申しますかなんと申しますか、あの、先ほど申しあげたことは本当のことで……、本当にそれくらい……あっちのほうは……ご無沙汰で……、ウソいつわりなく……
 ホントのホントに、この二ヶ月間は処女なのか?
 本当の本当ですっ。ウソではありません。わたし彼氏と、あの、高校時代の女の友だちから、彼ならゼッタイだからって太鼓判押されて、それでつき合いはじめた彼氏なんですが、その彼とも、相性が悪かったと申しますか、なんて申しますか、とにかく二ヶ月ももたないで別れてしまって、それで、わたしには恋愛は向いてないのかなと思って、だったら仕事一筋、中途半端なアルバイトとかではなく、もっと思いっきり、仕事しているって呼べるようなキチンとした職に打ち込もうと思いまして……
 ……で、住み込みの家政婦になったと?
 いろいろと職を点々としましたあと、まあ……
 ふ~ん………
 ふ~んって、あの、なにを……お考えになっていらっしゃるんですか?
 で、契約内容は?
 契約……内容?
 あのさぁ、この家の家政婦って、雇うときに三つのグレードに分けて契約するじゃないか。
 グレードに分けて? そうなんですか?
 給料、いくらもらってるの?
 ちょうど二十万です。
 ああ、ノーマル契約ね、ノーマル。
 ノーマル? あのっ、住み込みで、食事と家賃とは別に、それで二十万いただいてるのに、それでもノーマル、ごく普通の契約と?
 お前、さっき自分がいったこと忘れたのか? この家は頭に“超”が三つつくぐらいの金持ちなんだぞ。
 では、では、もっと、あるいはもっともっと上が……?
 そっ。“ノーマル”“ハイ・グレード”“プレミアム”とアップ・グレードしていくんだ。
 ハイ・グレードに……プレミウム……
 そっ。プレミウム契約なら、基本給だけでも五十万もらえるんだぜ。

          (つづく)

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2008年4月 9日 (水)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その6

 あっちのほうと申しますと?
 アレだよ、アレ。男と女がするコレのことだよ、コ・レ。
 ヒっ、ヒワイな手つき……なさらないでください……
 コレぐらいなんだよ。こんなの普通じゃないか。いまどき女子高生だって男に隠れてこんなことしてるじゃないか。
 そ、そうかもしれませんけど……、でも……
 で、どうなの?
 な、なんのことですか?
 しらばっくれるなよ。あっちのほうもつい口を滑らせたりするのかって訊いてるのさ。どうなの? あるんじゃないのか?
 ええっと、ええっとぉ……、そういうことが……ない……わけでは……ないと申しますかぁ……
 どこまで? どこまでオープンにしちゃうわけ?
 ええっと、ええっとぉ……、その……、どこで知り合ってとかぁ……、どうやってベッド・インすることになってとかぁ……
 ベッドのなかのことも詳細に?
 ま、まあ……、そういうことも……ない……わけでは……
 ひょっとしてさ、そのとき何回イッたなんてことも、場合によっては口を滑らせたりしたことがあったり?
 ま、ま、まあ……、そ、そういうことも……過去に……いちどか……にどか……さんどか……
 ふ~ん、お前、スゴイね。
 あのっ、あのっ、このこと、ご家族のみなさんに黙っていてもらえませんか。この通りですっ。お願いしますっ。
 黙ってるのは構わないけど、でもなぜなんだ。なぜそんなに頭下げてまで頼みこんだりするのさ。
あの、不本意なことなんですが、このクセで以前、家政婦をクビになったことがありまして……
 なんだ、その程度のことか。
 あの、ご家族の方々には黙っていてください。お願いしますっ。まだ日は浅いですけど、でもわたし、この家のことも、この家のご家族の方々もとても気に入っているものですから……、あの、この通りですっ……
 黙ってるのはいいけど、でも、ひとつ条件があるかな?
 条件?
 そっ。いままでに最高にイキまくったときの状況を詳細に話したら、そうしたら黙っていてやらないワケではないかな?
 そっ、そんなのお答えできませんッ。そんなのッ……
 じゃあ、体位とイッた回数と、あとそのとき失神したかどうかだけでもいい。
 それも、それもお答えできません……、それも……けっして……
 じゃあ、交渉不成立だな。
 交渉不成立!?
 そっ。キミがオレの期待に応えないと、オレだってキミの要望を飲んでやれないぜ。それが取り引きってもんだろ?
 そ、そうです……けど……
 じゃあさぁ、最近はいつセックスした? いつセックスしたかと、その時のイッた回数だけでいいや。いつ男とハメハメして、何度イッた?

          (つづく)

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2008年4月 5日 (土)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その5

 幼稚園だけじゃなく、小等部、中等部、どこからでも構いませんけど、入るのは非常に難しい学校なんですけど、でも、いったん入ってしまえばあとはどこまでもエスカレーター式で、最低限の勉強っていいますか、与えられたカリキュラムだけをこなしていれば誰でも上の学校へ上がれるっていう、もう砂糖と練乳とカルメラソースでまぶしまくったような、ちょーアマアマのシステムで、ですから、普段は遊ぶこととか、食べることとか、ケータイでメールすることとか、もう、勉強とはいっさい関係ない、どうでもいいようなことばかり考えている生徒だけですので……
 そっかぁ。で、そんなにスクスク育っちゃったっていうワケかぁ。
 そうなんです。ショップで売られている普通のスカートでは入らなくって、丈直しなんか引き受けてくれる近場のお店に改めて持っていって、そこでウェストやヒップのあたりをすこし緩めに作り直してもらって、それでようやく身に着けることができるんですけど、それでもたまに……
 お前、なんの話してんの?
 は? あの、スクスク育ったっておっしゃったのは、あの、ヒップのことおっしゃったんでは……
 違うよ、違う。背だよ、背。その見上げるほど高い身長のこといったんだよ。
 あ、そっちのことでしたか。
 でも、そういわれてみればヒップのほうも、身長に負けず劣らずデカイな。何センチなんだ?
 ええっと……、ええっとですね……、ええっとぉ……、なんて申しますかぁ……
 オイオイ、恥ずかしがるような年齢じゃないだろ。何センチなんだ?
 ハ、ハイ。百と……五センチ……ほど……
 ひゃくごーッ!?
 あのっ、あのっ、以前は、以前は百十センチ越していまして、雑誌とかに載っている部分痩せダイエットとかも、もう、全部やりつくしたっていうほどアレコレ試してみたんですけど、でも、でも、どうしても百十センチの壁が破れなくって、わたしの場合、体質的にはムリなのかな~と諦めかけていたんですけど、でも、でも、家政婦の仕事をはじめてからみるみるとヒップが縮んでいって、これなら夢の九十センチ台も不可能じゃないかもって……あっ、自分ばっかりしゃべってしまって、申し訳ございません。
 べつに頭下げるようなことじゃないけど、でも、いつもそんなふうなのか?
 そんなふうって申しますと……?
 訊かれもしないのに、自分からペラペラしゃべるのかって訊いてるのさ。
 あの、いまのはたまたまっていうか、てっきりレイジさんのことを強盗かなにかだと勘違いしてしまって、それであの、その尋常ではない緊張が一気に解けたものですから、それで余計ないことをペラペラしゃべってしまったんだと思いますけど、でも……、質問されると余計なことまでしゃべってしまうクセは……、ないわけでは……
 じゃあさぁ、あっちのほうもつい口を滑らせちゃったりなんてことがあるのか?

          (つづく)

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2008年4月 1日 (火)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その4

 あの、わたしが大蔵とチャッピーの開けかたを知らないと、なにか都合の悪いことでもあるんでしょうか?
 いや、なんだ、そのぉ……、小遣いを……、そう、小遣いを……せびろうと思って……
 あ、なるほど。そうだったんですか。でも、ご主人様の書斎に置かれている大蔵のほうには、現金だけではなく、クローゼットの引き出し納まりきらなかった奥様のアクセサリーやツーカー証券とかがいっしょに入っているとかで……
 有価証券。
 は?
 “ツーカー”じゃなく、“有価”証券。
 ユーカー証券?
 お前、こんどは別の角度でオレをからかってるのか!?
 そっ、そんなことありません、そんなこと……、決してからかっている訳でも、ふざけている訳でもなく、なんて申しますか、あの、なにぶん学がないもので、時折そのようなことが……
 学がないって、高卒とか?
 いいえ……
 いいえって、じゃあ、中卒っ!?
 ……………
 なにっ!? なんで黙ってるんだよっ。お前、まさか小卒……
 いいえ。いちおう……大学のほうを出ておりまして……
 大卒っ!? 大学出てんの? どこの?
 あの……、なんて申しますか、あの……、いちおう……成亜のほうを……
 成亜―ッ!? せっ、せっ、成亜って、金持ち名門で有名な、あの成亜のことっ!? マジで?
 あの、あのっ、多分、レイジさんがご想像なさっていらっしゃるのは、一般入試のほうの学生さんのことかと……
 一般入試って……、あ、そっか。エスカレーター式のほうか。お前、下から上がっていった口か。
 はあ、そのクチのほうで……
 だとすると、高校あたりから成亜に?
 いいえ。その下です……
 その下? じゃあ、中等部から?
 いいえ。その下の……そのまた下のほう……
 その下のそのまた下って……えっ? ひょっ、ひょっとして……付属幼稚園からっ!?
 はあ、いちおう……
 お前、スゴイじゃーん。
 凄くありません。決してそのようなことは。凄いだなんてそんなことは……
 いや、いや、スゴイよ、スゴイ。だってさぁ、あそこの付属幼稚園て、ただ親が金持ってるだけじゃダメで、入園するまでの面接だの適性検査だのが何回も何回も、それも、とてもこれから幼稚園に上がろうかっていうガキんちょ相手レベルの問題じゃなく、もっとずっとハイ・レベルの問題ばっかで、その面接と適正検査を、飽きるほど何度もクリアできないと入園許可が下りなくって、確か、合格率にすると五百倍越すとか越さないとかっていう、日本でいちばん入園するのが難しい名門幼稚園なんだろ?
 そ、そうです。そうなん……ですけど、でも、わたしたちなんてあの、なんて申しますか、あの学校にとってはただのおジャマ虫に過ぎない存在といいますか、なんと申しますか……
 おジャマ虫に過ぎない存在?

          (つづく)

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2008年3月28日 (金)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その3

 “超”が三つって、そっ、そっ、そんなに金持ちなの!?
 あら? この家の息子さんなにのご存知ないんですか?
 オっ、オっ、オレがいたころは……、せいぜい超がひとつ……つくぐらいだったから……、ハハっ…、ハハハ……
 そうだったんですか。だとするとなんでしょう? 奥様がなさっている株が当たりまくってるせいでしょうか?
 この家の母親……いや、お、お袋、株なんてやってるのか?
 ハイ。デイトレードっていうんですか? 午前中に一、二時間、アダルトローズ・カラーのノート型パソコンに向かうだけなんですけど、ワンクリックで百万、二百万、ホイホイ稼ぎだしていらっしゃるようですネ。
 “アダルトローズ・カラー”っていうのも気にならなくはないんだけど、この際パソコンはそっち置いとくとして、ワンクリックで百万、二百万稼ぎ出すって、それ、ホントの話なのか?
 ハイ。わたしにはサッパリわからないんですが、先日、円が暴落したときは、“ギャクバリ”とかっていう張り方で五百万ちかくお稼ぎになっていたようです。
 で、で……、ど、どこに……隠してるの?
 どこに隠しているって、なんのことおっしゃっているんですか?
 何のことって、それは、か、か、金だよ……。家のなかに、株やなんかで大儲けした金を……隠してるんだろ?
 金庫のこと、ですか?
 そうっ! そう、そう。金庫、金庫のことだよっ!どこ? どこにあるんだ、その金庫は?
 “大蔵”と“チャッピー”どちらのことおっしゃっているんですか?
 ダイゾーと……チャッピー?
 金庫の名前……ですけど、ご存知ないんですか?
 そ、そりゃ、なんだ……、家出……、そう、家出中だったから……
 そうでしたか。大蔵とチャッピーは、奥様とふたりの息子さんたちが勝手につけた名前で、ご主人様はごく普通に“大金庫”“小金庫”とお呼びになっていますけど。
 大っ! 大のほうだよ、大っ! その、大蔵とかっていう大金庫はどこにあるんだ?
 大蔵でしたら、ご主人様お使いになっていらっしゃる書斎の、ちょうどマントルピースのある位置にドーンと置かれていますが……
 お前……、あ、いや、キミ、キミは、この家に家政婦として雇われているキミは、その金庫の開け方を……
 もちろん、存じておりません……って申しますか、あちらはダイヤルが三つついていて、そのダイヤルを合わせるほかに、大金庫専用キーを差し込む必要がありますので、わたしのような身分の者にはとても……
 じゃあ、じゃあ、小金庫、そのチャッピーとかって呼ばれてる、小さいほうの金庫はどうなの? そっちは専用キーとかいらなかったりするんだろ?
 ハイ。そちらはナンバー・ロック式ですので、ピッ、ポッ、パッと、あらかじめ登録されているナンバーを打ち込むだけですけど……
 ……けど?
 ハイ。ナンバーは、その日、株で大当たりした会社に関する数字とかにジャカスカ、もう、午前と午後でも違うっていうほど頻繁に登録ナンバーを変更なさっているようですし、それに、デタラメに打ち込んでナンバーが当たったとしても、ナンバーのほかに指紋認証も必要だったりしますので、やはりわたしのような者には……
 そっかぁ……、そっちもダメかぁ……

          (つづく)

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2008年3月22日 (土)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その2

 イエデチュー?
 そのクチ……、お前、ピカチューかなんかと勘違いしてるんじゃないのか? あん?
 いえっ、いえいえっ、そっ、そのようなことは……けっして……
 家出だよ、家出! 出てったっきり戻って来ないっていう、あの家出中だよ。
 あ、そっちのほうの……
 で、その韓国からはいつ帰って来るんだ?
 成田に着くのが明日の正午頃とおっしゃっていましたので、2時頃にはこの家に戻ってこられると思います、お坊ちゃん。
 お坊ちゃん?
 家出中でもこの家の息子さんなわけですから、お坊ちゃんと…
 やめてくれ、気色悪いっ!
 では、レイジお坊ちゃん。
 よけい気色悪ィーだろうがっ!!
 では、レイジお坊ちゃん……様?
 お前、オレをからかってるのかっ!?
 いえ、いえいえ、決してそのようなことは……。ただ、あの……、どうお呼びしてよいのかわからないもので、下のふたりのお坊ちゃんと同じようにお呼びしてみただけでして……
 レイか、レイジ……いや、“レイジさん”だ。わかったか。
 かしこまりました、レイジさん。
 で、ホントに家族が戻って来るのは明日の昼過ぎなんだな?
 ハイ。
 ホントのホントに、明日の昼頃までこの家には誰も帰って来ない、それで間違いないんだな?
ハイ。間違いございません………けど、でも、なぜそう繰り返してお尋ねになるんですか?
 そりゃ、なんだ……、アレだ、オレのクセ……、そう、オレのクセだ。
 あ、なるほど。
 それにしても、しばらく見ないうちに家の中もすっかり変わっちまったなぁ……
 そうなんですか? ちなみにどの辺りが……
 そうだなぁ。そう、そう。こんな絵なんて掛けてなかったなぁ。
 そうなんですか? 奥様のご説明では、以前からずっとココに掛かっている水彩画だと……
 そっ、そりゃ、なんだ、リビング……、リビングの方だろ。玄関にかかってたワケじゃない。
 あ、なるほど。そういう意味でしたか。
 そうだ。この廊下の窓にかかってるカーテンだって、こんな少女趣味のヒラヒラしたアールデコまがいのもんじゃなかったし、ホラ、見ろ。リビングだってまったく違ってるじゃないか。どれもこれも、見覚えのない豪華な家具ばっかりだ。
 頭に“チョー”が三つつくくらいのお金持ちですからね、この家は。

          (つづく)

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2008年3月17日 (月)

『潤色の舌戯』 -家政婦編- その1

    『潤色の舌戯』 ― 家政婦編 ―
                         作 : 真堂 晃

 ……あら? いま、玄関のほうでなにか音がしたような………。確かめてきたほうがいいかしら…………
 誰だッ!! こっちへ来るなっ! こっちへ来るんじゃないッ!
 あッ……、あッ……、あのっ……、あのっ……、ええっと……
 お前は誰だッ! 何者だーッ!!
 あのっ……、あのっ……、ええっと……、こっ……、こっ……、この家っ……、この家のかっ……、かっ……、家政婦っ……です……
 この家の……家政婦?
 あのっ……、あのっ……、ええっと……、ええっとぉ……
 何だッ! 何かようかッ!?
 あっ……、あっ……、あのっ……、よう……、用事……じゃないん……ですが………、あ……、あの……、わたしはこの家の家政婦……なんですが……、あ……、あの……、なんて申しますか……、あな……、あな……、あなた様……こそ………、どこの……どなた……様……ですか……?
 オレか! オレはその……、なんだ、この家のむすこ……そう、そうだっ! オレはこの家の息子だッ!
 この家の……息子さん?
 な、なんだよっ! 息子じゃ悪いかッ!?
 あの、あの、そういう訳ではないんですが、わたしが言いたかったのは、そんなに大きくて……っていう意味でして……
 お前っ、オレのことをからかってるのかッ!!
 かっ、かっ、からかっているなんて……、なっ、なっ、なんのことおっしゃっているだか……わたしにはサッパリ……
 “そんなに大きくて”って、身長のこといってるんだろうがっ!
 ちっ、ちっ、ちがいます。違います。わっ、わっ、わたしが申し上げているのは、そういう……、そういう……ことではなくて……
 そういうことではないって、じゃあ、何のこと言ってるんだッ! わかるようにキチンと説明してみろっ!
 あのっ、あのっ、わたしが申し上げたかったのは……、なんて申しますか、あの……、年齢……、年齢のことを……申し上げたかっただけで……、あの、なんて申しますか、その……、この家のお子さんはふたりきり……、健一お坊ちゃんと、それから優二お坊ちゃんの……ふたりきりと……、そうおうかがいしていたものですから……
 長男のレイジだ。
 長男の……れいじ? あ、なるほど。
 何が“あ、なるほど”なんだ!?
 ゼロ、イチ、ニィとつづくわけですよね、お名前が。それで、名字が千葉さんで、奥様のお名前が百合子様で、ご主人様のお名前が万太郎様で、偶然とはいえよく出来たお名前だな~と感心してしまっただけなんですが……、あの、なんて申しますか、おふたりの息子さんのほかにこんなに大きな、あの、年齢的なことですが、こんなご立派に成人なさった息子さんがいらっしゃった……んですね。
 ああ、いらっしゃったんだよ。で、その一家揃って理系みたないご家族はどこ行ったんだよ?
 一昨日から韓国のほうにご家族全員で旅行にお出かけになっていますけど……、あの、ご旅行のこと、聞いてらっしゃらなかったんですか?
 家出中だったからな。

          (つづく)

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